新世紀エヴァンゲリオン及びヱヴァンゲリヲン新劇場版を楽しむための前提知識をまとめました。タイトルで2度目に観ると明記したのは、ネタバレ要素が含まれるからです。個人的に思うエヴァンゲリオンの楽しみ方は次の通りです。
- 何も情報を仕入れずに TV 版から新劇場版までの作品をはじめから最後まで観る
- 観終わった後に残った違和感や疑問点を意識してもう一度はじめから観る
とは言え、結局のところ楽しみ方はひとそれぞれだと思いますので、ご自由に。
まとめて観るには DVD を借りる以外にこんな方法もあります。
劇場版は DVD を借りてみてください。順番はこんな感じ。
- DEATH (TRUE)2
- Air / まごころを、君に
- ヱヴァンゲリヲン新劇場版: 序
- ヱヴァンゲリヲン新劇場版: 破
以下、観る前に読んでしまっても何の保証もいたしません。個人的な感覚ですが、以下のようなことを知ってから改めて観ると、少なくとも10倍は楽しさが増します。
もくじ
- はじめに
- あまり知られていない大前提
- 2つの月とそこから孵った生命体
- なぜ白き月よりの使徒は黒き月よりの使徒を滅ぼしたいのか
- サードインパクトによって何が起こるのか
- 人類補完計画とその目的
- エヴァンゲリオンにおける生と死
- 新劇場版完結への期待
- 参考 Web サイト
- エヴァンゲリオンと自分
はじめに
この文章は、自分が長年エヴァンゲリオンを読み解き続けたまとめとなります。未だに結論が出ていないため推測の域を出ないことも多々有ります。自分自身も、ここに書かれたことがすべてでは無いと考えて、日々別の可能性を考えています。ですが、いつまでたってもそれではキリがないので、現状で最も真実に近いと自分が判断した情報をまとめてました。
信じるも信じないも自由です。真実を追い求めることが良いことなのかどうかもわかりませんが、そこは加持さんの言葉を借りたいと思います。
ただ、真実に近づきたいだけなんです。ぼくの中のね。
第弐拾壱話: ネルフ、誕生 – 加持リョウジ
あまり知られていない大前提
企画段階で設定されていたものの、アニメ版では触れられていなかった大前提をはじめに紹介します。引用は Wikipedia から。
この宇宙に初めて誕生した知的生命体。彼らは生命の種を複数宇宙に蒔き、地球には「アダム」と「リリス」という2種類の種が落ちた。先に地球に到達したのはアダムを乗せた「白き月」であり、これは現在の南極大陸に存在した。しかし後にリリスを乗せた「黒き月」も地球に落下する。エヴァ世界ではこの衝突が月形成の原因となったジャイアントインパクトである。
宇宙のどこかに高度な知的生命体、第一始祖民族が存在し、その知的生命体が宇宙に生命の種を撒いた。それが黒き月と白き月であり、地球には2つもの種が飛来してしまった。そして始まったのが、エヴァンゲリオンの物語です。
地球に月が誕生したジャイアントインパクトが、実は黒き月の飛来によるものだったというこの設定。この大前提がアニメ版で一切語られなかったために、多くの議論を呼ぶきっかけとなりました。ちなみにこのジャイアントインパクトが、ファーストインパクトとなります。
他の生命を生み出す存在。第一始祖民族とは、神そのものです。
参照
2つの月とそこから孵った生命体
地球に落ちた生命の種は次の2つ。
それぞれはからは次のような生命体が孵ります。
- 白き月: 第一使徒アダム
- 黒き月: 第二使徒リリス
そしてアダムからは、第三サキエルから第十七タブリスまでの使徒が生まれます。一方のリリスからは、第十八使徒リリンが生まれます。
リリンとはすなわちヒトです。
シンジ君、私達人間もアダムと同じリリスと呼ばれる生命体の源から生まれた十八番目の使徒なのよ。他の使徒達は別の可能性だったの。
第25話: Air – 葛城ミサト
つまりエヴァンゲリオンとは、白き月よりの使徒と黒き月よりの使徒との生き残りをかけた戦いの物語なのです。
なぜ白き月よりの使徒は黒き月よりの使徒を滅ぼしたいのか
エヴァンゲリオンとは生き残りをかけた戦いの物語だと言ったとおり、白き月よりの使徒の目的は、黒き月よりの使徒を滅ぼし、自分たちが生き残ることです。
第十七使徒タブリス(渚カヲル)の言葉を借りれば次のようになります。
さあ、僕を消してくれ。そうしなければ、君らが消える事になる。滅びの時を免れ、未来を与えられる生命体はひとつしか選ばれないんだ。そして、君は死すべき存在ではない。君達には未来が必要だ。
第弐拾四話: 最後のシ者 – 渚カヲル
では、どのようにすれば他方を滅びし、自らが生き延びることができるのか。その答えが、サードインパクトです。
参照
サードインパクトによって何が起こるのか
サードインパクトが起これば、生命体は LCL に還元されます。つまり、生命の源に還るのです。言い換えるならば、現状の形を捨て、生命体がリセットされることになります。そのリセットの後、再構築が行われ、未来を与えられる生命体が選ばれます。
そう、白き月よりの使徒と黒き月よりの使徒との戦いは、サードインパクトを引き金として起こる事態の主導権争いなのです。
では、そのサードインパクト、生命体のリセットと再構築は、何によって起こるのでしょうか。
旧約聖書創世記によれば、ヒトは知恵の実を食べ、楽園を追い出されたと言われています。楽園を追い出された理由、それはもしヒトが知恵の実に続き生命の実を食べてしまったら、ヒトが神に等しき存在となるからです。
神である主は仰せられた。「見よ。人はわれわれのひとりのようになり、善悪を知るようになった。今、彼が、手を伸ばし、いのちの木からも取って食べ、永遠に生きないように。」
そこで神である主は、人をエデンの園から追い出されたので、人は自分がそこから取り出された土を耕すようになった。
創世記第三章
このことは原罪と呼ばれ、以来ヒトはこの罪を背負い続ける運命を歩んでいると考えられています。
エヴァンゲリオンにおいては、ヒト以外の使徒たちは生命の実を食べたとされています。その証拠に彼らは S2 機関を搭載し、無限の生命力を持っています。
では、知恵の実と生命の実がそろい、神に等しき力を得た者が誕生した場合はどうなるのか。その神に等しき力を得た者の意思に従い、生命体がリセットされ、再構築されるのです。
この世界の理を超えた新たな生命の誕生。代償として、古の生命は滅びる。
ヱヴァンゲリヲン新劇場版: 破 – 赤木リツコ
参照
人類補完計画とその目的
サードインパクトによって生命体がリセットされ、再構築されると説明しました。その生命体をつくり直す過程で、ヒトが持つ原罪を晴らし、新たな生命体として生まれ変わることこそが、人類補完計画の目的です。
ただし、この計画を別の目的に利用しようとする者もいました。それが碇ゲンドウです。ゲンドウは神と同等の力を得て、碇ユイに会うこを目指しました。原罪を晴らすことではなく、なおも神の掟を破り、ただユイに会うことを目指したのです。
人類補完計画とは、これらの異なった思惑が交錯するものでした。
エヴァンゲリオンとアダム及びリリスとの関係
まずエヴァンゲリオンとは、結論から言えば、力で劣るリリンが白き月よりの使徒たちを殲滅するために自らの持てる最大の力、科学力を駆使して生み出した使徒殲滅のための兵器です。そして同時に、人類補完計画の際に依代となる存在でもあります。
エヴァンゲリオンを建造するにあたり、アダム及びリリスをコピーしたため、両者はいわばクローンのような関係にあります。もう少し詳しい解説を付け加えるためには、エヴァンゲリオンの生みの親である存在から語る必要があります。
ゼーレ
裏死海文書に従って、人類補完計画の遂行をめざす秘密結社です。全世界を操作できるほどの権力を持つ組織であり、エヴァンゲリオンの建造も、人類補完計画遂行のためにゼーレの指示の下行われました。
裏死海文書とは、ゼーレの行動指針となっている文書のことです。どこでどのように発見されたのかは不明ですが、使徒の襲来やサードインパクトの詳細、人類補完計画の目的などあらゆる事柄が記載されているものと思われます。
ネルフ(旧ゲヒルン)
ゼーレがエヴァンゲリオンの建造と来るべき使徒襲来のために設立した組織です。
歴史
ゼーレ及びその指示のもとネルフ(旧ゲヒルン)が行ったことのうち代表的なものは以下の通りです。
- 裏死海文書の記述に従い南極を探索
- 白き月と第一使徒アダムを発見
- ロンギヌスの槍を使いアダムとヒト(碇ユイ?)の遺伝子を結合して渚カヲルを生み出す
- この時セカンドインパクトが起こり地球の生命体の大半が消滅
- 引き続き死海文書の記述に従い箱根を探索
- 黒き月と第二使徒リリスを発見
- ロンギヌスの槍を使いリリスと碇ユイの遺伝子を結合して綾波レイを生み出す
- 来るべき第三使徒から第十七使徒までの襲来に備えて人工の使徒エヴァンゲリオンを建造
- リリスをコピーして零号機と初号機を建造
- 零号機には赤木ナオコの魂を入れる(碇ユイの魂だとも魂が無いとも言われている)
- 初号機には碇ユイの魂を入れる
- セカンドインパクト時に卵にまで還元していたアダムをコピーして弐号機以降を建造
- 弐号機には惣流キョウコツェッペリンの魂を入れる
エヴァンゲリオンとアダム及びリリスとの関係
ここまでの説明で重要なのは次の点です。
- 渚カヲルはアダムの魂を持っている
- 綾波レイはリリスの魂を持っている
- 零号機と初号機はリリスのコピー
- 弐号機以降はアダムのコピー
- エヴァンゲリオンにはヒト魂が入れられている
つまりエヴァンゲリオンは、アダム及びリリスをコピーして造られたものであるが、魂はコピー出来なかったため、ヒトの魂を入れてあるのです。
人は神様を拾ったので喜んで手に入れようとした。だから罰が当たった。それが15年前。せっかく拾った神様も消えてしまったわ。
でも今度は神様を自分たちで復活させようとしたの。それがアダム。
そしてアダムから神様に似せて人間を作った。それがエヴァ。
(中略)
本来魂の無いエヴァには、人の魂が宿らせてあるもの。みんな、サルベージされたものなの。
魂の入った入れ物はレイ、一人だけなの。あの子にしか魂は生まれなかったのよ。ガフの部屋は空っぽになっていたのよ。
第弐拾参話: 涙 – 赤木リツコ
エヴァンゲリオンにおける生と死
生死を分ける境目はどこになるのか。これはエヴァンゲリオンを読み解く上で重要な概念だと考えられます。重要なキーワードの解説から、その答えを探ります。
コアと A.T.フィールド
使徒を構成する要素として、コアと A.T.フィールドが挙げられます。
コアとは自我を意味しています。使徒はコアを持ち、コアを破壊されると死にます。それは即ち、すべてに生命体は自我を持っており、その自我が崩壊した時、死を迎えるという意味です。
A.T.フィールドとは、渚カヲルが言う通り、心の壁を意味しています。自分と他人の間にある壁、言い換えるならば、自我の壁です。もしこの A.T.フィールドが無くなれば、生命体は LCL に還元され、生命の源に還ります。サードインパクトが起こってヒトが LCL と化したのは、A.T.フィールドを失ったからなのです。
リビドーとデストルドー
リビドーとは、性及び生への衝動を意味します。つまりは生きることへの欲動です。一方のデストルドーは、死への欲動を意味します。これらの欲動がせめぎ合っているのが生命体です。
自我の壁である A.T.フィールドが発生するのは、生命体に生への欲動が存在するからです。その生命体がもし生きる欲動を無くし、死への欲動に支配されたらどうなるでしょうか。当然、A.T.フィールドの消失、自我の崩壊、生命体としての死が始まるのです。
参照
ロンギヌスの槍が持つ力
重要なシーンで登場するロンギヌス槍。その特殊性はどこから来たのでしょうか。それはロンギヌスの槍が持つ力に由来します。
ロンギヌスの槍は、エヴァンゲリオンにおいてはデストルドーの象徴として描かれています。ロンギヌスの槍は A.T.フィールドをいともたやすく貫き、使徒やエヴァを死に至らせます。
A.T.フィールドを貫きコアにロンギヌスの槍が突き刺さるということは、心の壁を貫き自我に死の欲動が突き刺さることと同義です。
つまり、ロンギヌスの槍はデストルドーの発生源となり、攻撃対象の生命体をデストルドーで覆い尽くし、生きる意志を奪う槍なのです。
エヴァンゲリオンにおける生と死
まとめると、エヴァンゲリオンにおいては、自我を失い、自分と他人との境目がなくなることが死であるとされています。また同時に、生きる意欲を失うことも、死であるのです。
新劇場版完結への期待
ここまでエヴァンゲリオンについてこれまでに読み解いたものをまとめてきましたが、完結へ向けての期待も少し残しておきたいと思います。
これまでに公開された新劇場版から、すでにおもしろい推測が出ています。新劇場版は旧劇場版の続きではないかといったループ説などです。その証拠として、西暦が不明であったり、海水が赤かったり、月面に旧劇場版時の血痕のようなものが残っていたり、人類補完計画中間報告書の番号が上がっていることが挙げられています。
はたしてその真相はどうなのでしょうか。どの説もまだ推測の域を出ないですし、完結した後に結論が出るのかも不明ですが、こうやって待つことこそ最大の楽しみなのかもしれません。
個人的に特に知りたいのは、真希波マリイラストリアスの正体について。ベタニアというキーワードから、マグダラのマリアの象徴では無いかという説など、深読みする要素が満載です。
参照
参考 Web サイト
ここにまとめた事柄は、自分で思いついたことではありません。そのほとんどが、書籍や Web 上の情報で構成されています。書籍類を手にしていたのは十数年前のため、タイトル等を失念してここに掲載できないことが残念でなりません。
エヴァンゲリオンと自分
最後に少しだけ、エヴァンゲリオンに関する思い出を。
中学生時代に友人からエヴァンゲリオンのテレビ録画ビデオを借りたことが、すべてのはじまりでした。アニメにすらそれほど興味が無かった自分は、そんなのにハマるやつはオタクだとバカにしながら借りたのを覚えています。
エヴァンゲリオンの DVD を集め始めたのはその直後。当時まだ DVD 自体が出始めだったため非常に苦労しながら DVD を集めたことを昨日のことのように思い出します。
その後は、来る日も来る日も繰り返し見てはわからない言葉をかき集め、調べる毎日。極度の読書嫌いだった自分が、宗教、心理学、軍事技術、コンピューターサイエンスなどなど、多岐に渡る本を読みあさるきっかけとなりました。辞書や聖書を最初から読んでいくとか、いまでは考えられないほどの力を注いでたものです。
こうやって振り返ってみると、明らかにいまの自分の興味関心、さらには生き方が、エヴァンゲリオンの影響を受けていると感じます。
いまのところ、後悔はありません。
シンジ君。俺はここで水を撒くことしか出来ない。だが君には、君にしか出来ない、君になら出来ることがあるはずだ。誰も君に強要はしない。自分で考え、自分で決めろ。自分が今、何をすべきなのか。まぁ、後悔のないようにな。
第拾九話: 男の戰い – 加持リョウジ